タップダンスって、なに?
クラシックバレエ、ジャズダンス、ヒップホップダンスなどメジャーなダンスは数々ありますが、忘れてはならないダンスがもう一つあります。それがタップダンスです。とはいえ、普段からテレビや街角で見かけることも少ないので、他のダンスと比べるとイメージすることがちょっと難しいかもしれません。
簡単に説明すると、金具の付いたシューズを履いて、踏み鳴らしながらリズムを表現するダンスです。少し前になりますが、北野武監督の「座頭市」という映画で、下駄を履いてタップダンスをする群衆のシーンがありました。それが脚光を浴びたことで、タップダンスを初めて知ったという方も多いでしょう。
タップダンスの誕生の歴史は、決して明るいものではありません。1800年代後半、アメリカ南部で奴隷として扱われていた黒人たちが、唯一の自己表現だったドラム演奏さえも禁止され、ドラムの代わりに足踏みだけで地面を鳴らす演奏を始めました。これがタップダンスの起源と言われ、1920年代にジャズミュージックが生まれることで、音楽に合わせて足を踏み鳴らすという現代のタップダンスが確立されました。後にこれがジャズダンスのルーツにも発展していきます。
また、ただ素足を踏み鳴らしていた時代から、靴を履き、音楽に合わせてリズムを刻むという時代になり、当初はコインや廃材を靴底に付けて、良い音が出るように様々な工夫をするようになりました。これがいわゆるタップシューズの原型です。現在では、タップチップという専用の金具がシューズに取り付けてあります。
タップダンスは、貧しい人々の哀しみや怒りを発散させるために自然と生まれた、魂の表現とも言われていました。国が変われば、アイルランドのアイリッシュダンス、スペインのフラメンコなども同じような起因とスタイルを持っています。そういう面では、時を経てニューヨークのストリートで生まれた、感情のまま踊るヒップホップダンスも成り立ちはよく似ています。それぞれ表現方法は違いますが、訴えたいものは同じなのでしょう。
タップダンスは楽器と同じ
タップダンスは、ダンスという名前こそついていますが、とにかくリズムを刻むという意味では、その起源からもわかるように、楽器のドラム演奏に近いかもしれません。クラシックバレエを「芸術的表現」、ジャズダンスやヒップホップダンスを「音楽を身体で見せる表現」とするならば、タップダンスは言わば「音楽を身体で奏でる表現」ということです。その点から他のダンスとは一線を画しており、小学生のキッズから80歳のシニアの方まで、同じ曲を一緒に踊ることも珍しくありません。それはやはりタップダンスの中に楽器演奏というニュアンスが多く含まれているからなのでしょう。
エンターテインメントとしてのタップダンス
タップダンスが爆発的にエンターテインメントの中心となったのは、ハリウッドのミュージカル映画の躍進です。フレッド・アステアやジーン・ケリーなど銀幕の大スターが出現し、その人気を不動のものとしました。またブロードウェイのミュージカルでも多くの名作が生まれ、すっかりエンターテインメントの主流として定着しました。その後、ジャズダンスと人気を二分し、現在もエンターテインメント界では欠かせないダンスとして存在します。
もともとはジャズミュージックやミュージカルナンバーで踊っていましたが、最近ではロックやファンクミュージック、和伴奏などでも踊り、タップチップを加工することで金属音だけでなく、色々な電子音を出せるタップダンスもあります。
そして、ライブや劇場で観る生のタップダンスは、とにかく圧巻です。他のダンスには真似できない、大迫力の音と動きがあり、それこそがタップダンス最大の魅力でもあります。
タップダンスのジャンル
タップダンスには大きく分けて二つのジャンルがあります。リズムをいかに刻んでいくかという、ダンスよりも楽器演奏に近い本来のスタイルの「リズムタップ」、ブロードウェイや劇場で必要とされる華やかな動き、ジャズダンスの要素が取り入れられた「シアタータップ」があります。
リズムタップは、とにかくどれだけ細かく複雑なリズムを刻めるかがポイントで、上半身の動きというのはほとんどありません。それに反してシアタータップは、複雑なリズムよりもステージ映えする上半身の動きが入ってきます。ですから、同じタップダンスと言えども、リズムタップの上級者がシアタータップをまったく踊れなかったり、シアタータップの上級者がリズムタップにまったくついていけないなんてことも珍しくないのです。
以前までは、シアタータップの需要が多かったのですが、昨今ではリズムタップの方が需要が高まっているようです。いずれにしても入り口は同じですので、まずは基礎を身につけて、進めていくうちにどちらのスタイルが自分に合っているか決めるとよいでしょう。
タップダンスの練習は?
まずタップダンスには、タップシューズとタップボードという専用の板が必要です。最初のうちは普通のスニーカーと床でも構いませんが、あくまでも最小限の練習しかできないので、結局はタップシューズもタップボードも必要になってきます。大体の養成所やダンススクールではタップボードが備わっているので、タップシューズだけは揃えましょう。実はこのタップシューズを履くだけでも、かなりワクワクします。履いて歩くだけでも音がするので、それだけで感動というか、タップに対する特別感が生まれます。それこそ新しい楽器を手渡されたような感覚でしょうか。まずはそのちょっとした感動を得ることが始まりであり、とても大切なのだと思います。
道具が揃ったら、いよいよ練習です。タップダンスは、ひたすらステップの練習あるのみです。シャッフル、フラップ、パドル、プルバックなど、多種多様なステップがあり、その組み合わせで振付も構成していきます。当然ながら、覚えたステップが一つでも多いほど、振付の幅も広がっていきます。
ダンススクールや養成所でできること
タップダンスもステップだけの話なら、動画などで練習することも可能ですが、道具を揃える必要性、存分に音を出してもよい環境を考えると、養成所やダンススクールで学ぶのが必然と言えます。
タップダンスで一番養われるのは、当たり前ですがリズム感です。ただ、このリズム感は理屈ではなく、文字通り身体で覚えるしかありません。とにかくやってみて、うまくいかなくて、またやってみて、自然とできるようになっている。それは、初めて自転車に乗れた時の感覚に似ています。そんな小さな失敗と成功の体験を繰り返すことで上達していくので、独学よりも講師や仲間がいる方が励みになるのは事実です。
また、タップダンスは足だけで踊るイメージですが、腹筋や背筋、体幹を使った全身運動なので、微妙な重心移動とバランス感覚で踊っています。一人で練習していると知らないうちに自分の足元ばかり見ていたり、背筋が丸まっているような、動き方に余計なクセがついてしまう場合が多く見られます。養成所やダンススクールでは、その個人のクセにも注意しながら指導していきます。
タップダンスで培われたリズム感とバランス感覚は、他のダンスやスポーツにも大いに役立つでしょうし、ジャズダンス同様、背筋が伸び姿勢や所作が良くなります。
そして養成所やダンススクールで、同じ目標を持つ仲間やライバルと刺激し合い、同じ時間や空間を共有することは、何よりも宝物となるでしょう。
タップダンスを踊るなら..
先にも紹介したように、エンターテインメントの世界ではジャズダンスと並び、タップダンスは必要不可欠です。ダンスのみならず演劇などにも有効なリズム感が養われるため、今もなお重要視されています。本格的にその世界を目指すのなら、タップダンスを身につけておいて損はないでしょう。
単なる趣味としても、踊りながら楽器を演奏するような感覚は、とても新鮮で魅力的だと思います。
どのダンスにも言えることですが、最初のうちは慣れるまでが大変です。でも、慣れてきて自分の身体が思い通りに動くようになってくると、楽しさも一気に倍増します。タップダンス、ジャズダンス、ヒップホップダンス、クラシックバレエ、それぞれに個性と魅力がありますが、すべてのダンスは根元で繋がっています。いずれも楽しんで踊るということが大切です。それぞれの特徴をよく知って、楽しみながら踊ることを忘れないでほしいと思います。