演技が上手い役者とは
そもそも「演技が上手い」の定義から役者は学ばなければいけません。自分の好き勝手に芝居をしている役者は「上手い」とはいえないでしょう。真の役者は媒体によって演技を使い分けられます。
たとえば、テレビドラマならリラックスして見ている視聴者が大半なので、分かりやすい演技が求められています。一方、舞台演劇なら仕草や声をオーバーにしつつも繊細な感情表現を乗せなければいけません。出演作品ごとに演出家の意図、お客さんの層を意識できるのが「上手い演技」の一つの条件です。
また、媒体ごとにジャンルやシーンを考えて演じるテクニックも必要です。演技の世界ではよく「ナチュアルアクト」という言葉が使われます。ただ、どんなときも普段どおりに演じるのがナチュラルとは限りません。サスペンスならサスペンスの、コメディならコメディの世界観があります。その世界観から外れてしまうと自然な演技も自然に見えなくなります。ジャンルやシーンに応じて、求められる自然さを表現できるようになりましょう。
これらの基本を踏まえて、空気感が独特だったり、透明感や華があったりといった個性があると理想的です。演技力に加えて、大衆を引きつける魅力を持つことが大事です。
上手な演技のポイント1:声と姿勢
演技力を高めるには「声」と「姿勢」を強く意識しましょう。
特に、滑舌がいいことは演技をするうえでの基本スキルです。どんなに素晴らしい台詞を与えられても、お客さんに伝わらなければ意味がありません。それに、滑舌が悪いとお客さんが気になってしまい、作品に集中できなくなってしまいます。もともと滑舌が悪い役者も訓練次第である程度は矯正可能です。舌の位置や発生方法を注意しながら話すと、聞き取りやすい声に変わっていきます。また、同じ台詞でも声の通りがいいと説得力が増すでしょう。
次に、きれいな姿勢を保つようにしましょう。演技に慣れていない人は「考えながら話す」クセがついているので、仕草が疎かになりがちです。その結果、貧乏ゆすりや猫背といった余計な動作が増え、お客さんに余計な情報を与えてしまいます。
こうした状況を防ぐには、体幹をしっかりさせるようにしましょう。まっすぐの姿勢が普通になれば、無駄な動きは消えて演技に必要なアクションだけを表現できるようになります。
上手な演技のポイント2:感情表現
上手な役者は感情表現が巧みです。演技力の訓練では感情をいかにコントロールするかを考えてみましょう。
演技の初心者は、感情表現といわれると「過剰」になるか「不足」しているかのどちらかです。大げさな身振りや台詞回しで気持ちを伝えようとしたり、まったく感情が伝わらなかったりします。しかし、演技力が身についていくと、さり気ない動作や表情で感情を伝えられるようになります。作品の世界観を意識しながら、求められている表現を脚本から読み解いていきましょう。
さらに、優れた役者は感情の「つながり」まで伝えられます。映画やドラマ、演劇では登場人物の行動を流れで描いているので、一部のシーンだけで突出した芝居をしていても意味がありません。前後の芝居と関連性が見えなければ、その作品は失敗です。
また、自分だけの解釈で演技をしても周囲から浮いてしまいます。共演者の台詞、行動を受けて反射するように芝居ができるようになれば、一人前の役者です。
演技を上達させるためにできること1:腹式呼吸
具体的な演技訓練の方法として、「腹式呼吸」を磨きましょう。
一般人は日常において、喉から声を出しています。しかし、演技ではお腹から声を出すことが求められます。腹式呼吸を覚えて、お腹から声を出せるようになると細かく声色をコントロールできるようになるでしょう。さらに、声帯に負担をかけなくても大声が出せるので、長時間の現場でも声が枯れません。その日の体調に左右されず、安定して演技に必要な声を出せます。
腹式呼吸をマスターするには、仰向けになってトレーニングするのが手軽です。
仰向けのまま、お腹が上下しているのを意識して呼吸をしましょう。同じ感覚を、立っているときにも感じられるようにします。問題なく腹式呼吸ができるようになったら、喉を広げて「あー」と大声を出しましょう。かすれず裏返らず、芯の通った声が出せるまで繰り返します。なお、腹式呼吸は付け焼刃で身につきません。トレーニングは毎日の習慣にしましょう。
演技を上達させるためにできること2:表現力を上げる
役者に求められているのは「表現力」です。
キャリアの浅い役者は登場人物の気持ちをつかめたとしても、どうやってお客さんに伝えるのかがわかりません。その結果、違和感のある芝居をしてオーディションなどでの合格が遠のきます。優れた役者になるには感情としっかり向き合い、どうすれば相手に伝わるのかを考え抜きましょう。
効果的な訓練が「日記」です。日記をつけることで、自分の感じた気持ちを毎日記録します。大きなドラマがなくてもかまいません。ささいな感情でも、「どんな状況で」「どのように思ったか」を言語化すれば芝居のバリエーションが増えていきます。そして、今後の脚本読解に生かせるでしょう。
日記によって感情のストックがたまってきたら、実践に移ります。
鏡の前に立ち、喜怒哀楽の表情を作ってみましょう。喜怒哀楽ごとに、感情には大小があります。些細な表情の変化で、大小を演じ分けることが大事です。
慣れてきたら、今度は「感情の変化」を練習します。喜びが悲しみに変わる様子など、複数の感情を組み合わせて表情を工夫しましょう。感情の振れ幅と、変化を習得すれば役者として大きな成長を遂げたといえます。
演技を上達させるためにできること3:人間観察をする
自分の世界だけにこもっていては、さまざまな役を演じられません。
自分の価値観や思考回路とはまったく異なる人物にもなれるのが役者の醍醐味です。そのためには視野を広く持ち、他人の人生に関心を抱けるようになりましょう。
「人間観察」は演技の引き出しを増やすうえで非常に重要です。日常的に会う友達や家族、恋人の行動を今まで以上に深く見守るようにします。気になるポイントを否定的に考えるのではなく「どうしてそんなことをするのか」と突き詰めることで、他人の考え方を理解できます。引き出しが増えていくと、自分とは全然違う役を割り当てられたときにも柔軟に対応できるでしょう。
さらに、人間観察を深く行うなら目に映るすべての相手に注意を向けましょう。
電車に乗っているときにもスマホをいじらず、周囲の人間に目を向けてみます。そして、表情や仕草に注目し、「今何を考えているのか」を想像してみましょう。あるいは、「どのような人生を送ったら、こんな行動をとる人になったのか」と考えてみます。自分なりの筋書きを立てたら、1人になったときにその人を演じてみましょう。人間観察を徹底すれば、脚本がなくても演技の訓練を毎日行えます。