俳優と女優
テレビや映画、舞台などで活躍する「俳優」と「女優」について、違いが気になった事はありませんか?
一般的に「俳優」は男性の役者、そして「女優」は女性の役者というイメージが強いかと思いますが、女性の役者のことを「俳優」と呼ぶこともあり、違和感を感じたことがある人も多いのではないでしょうか。
俳優とは?
それぞれの違いを知るために、はじめに「俳優」とは何かを解説していきます。
俳優とは、演劇や映画に出演することを業とする人のことを言います。
役者という呼び方をすることもありますよね。
俳優という言葉は、職業の名前になるので、役を演じることを仕事にしている人は、男女問わず「職業は俳優」ということになります。
俳優という言葉は、1624年頃の寛永の時代、遊女歌舞伎が禁止され、男性のみが活躍している時代から使われています。
女優とは?
「女優」とは、女性の俳優のことを言います。
言葉の意味としては、俳優と全く同じで、性別が違うだけです。
男性のみが俳優の仕事をしていた時代が終わり、明治時代には女性も俳優という職業に就く時代が来ました。
しかし、当時はまだ「俳優と言えば男性の仕事」というイメージが強かったため「女性の俳優」という表現が生まれます。
その「女性の俳優」という言葉から、省略して「女優」という言葉が生まれたと言われています。
つまり、俳優と言う言葉の性別を区別するために、女優と言う言葉が生まれました。
俳優と女優の違い
「俳優」と「女優」の違いは、性別の違いで、女優は女性の俳優を指しますが、俳優と表現する場合は、男女どちらにも使われることもあります。
最近では、男女を分けないジェンダーレスが定着してきていることもあり、性別に関係なく「俳優」という言葉を使う機会も増えてきました。
NHKが「女優」という言葉を使わず、男女どちらにも「俳優」として紹介するようになった事も話題となりました。
ちなみに女優という言葉が出来たころには、男性の俳優を「男優」と呼んだ時代もありましたが、定着せずに、男性の俳優は「俳優」と呼ぶのが一般的になりました。
「女優」と呼ぶことに対する考え方
では、実際に「女優」として活動している人たちは、その呼び方をどのように思っているのでしょうか。
エマ・ワトソン
ハリウッド女優のエマ・ワトソンさんは、男女平等を訴えて、熱心にフェミニスト運動を行ってきた活動家としても知られています。
そんなエマ・ワトソンさんは、2017年に「MTV Movie&TV Awards」の、最優秀俳優賞を受賞し話題となりました。
話題となった理由は、これまでこの賞は「男優賞」「女優賞」が分けられていましたが、この年に男女を区別しない「俳優賞」が作られ、最初の受賞者が、熱心に男女の平等を訴えてきたエマ・ワトソンさんだったことです。
エマ・ワトソンさんは、受賞のスピーチで「MTVがジェンダーレスな俳優賞を創設したというムーブメントが、あらゆる人にとって意味を持つ。2つのカテゴリーに分ける必要はない」と語っています。
ケイト・ブランシェット
ケイト・ブランシェットさんも「女優ではなく俳優と呼ぶべき」と訴えてきた1人です。
2020年に開催された「ベネチア国際映画祭」で審査委員長を務めたケイト・ブランシェットさん。
インタビューでは、自身が「女優」という言葉が軽蔑的に使われた時代を経験していると言うことを語り、だからこそ自分のことは「女優」ではなく「俳優」と称してきたと伝えました。
広瀬すず
女優の広瀬すずさんは、2021年に出演したドキュメンタリー番組「情熱大陸」で、女優という肩書に慣れてしまっているけれど、気持ちの上では役者でありたいと表現しています。
実は、男女問わず、広瀬すずさんのように「役者」でありたいと考えて活動している俳優は多いです。
「役者」と「俳優」の違いについては、こちらで詳しく解説しています。
役者と俳優の違いと言葉の意味とは?芸能人のカテゴリーも紹介
広瀬すずさんの場合は「真摯に役と向き合いたい」「役を自分に引き寄せるのは、芝居で嘘をつきたくないから」など、役に対する強い気持ちから、役者でいたいという強い気持ちを持っているそうです。
秋元才加
AKB48の元メンバーで、現在は女優として活動している秋元才加さんも「女優」ではなく「俳優」と呼ばれるのがしっくりくると考えているそうです。
秋元才加さんは所属事務所にも、自身の肩書を女優から俳優に変更するように求めています。
他のインタビューでも、俳優表記にするように求めており「フラットに考えたい」と思ったことと、時代の流れも考えて、俳優と呼ばれることは「自分にとっては大事なこと」として、俳優と表記することを強く希望しています。
緒方恵美
2022年に「第16回声優アワード」で、主演女優賞を受賞した緒方恵美さん。
受賞のスピーチでは「女優賞でいいんですか?」と疑問を投げかけました。
緒方恵美さんと言えば、声優として数多くの少年役を演じてきたことでも知られています。
そのため、本人も「声優をやって来た7割くらいを少年役の声優として過ごしてきた。自分を女優と思ったことがあまりない。」と語っています。
さらに、これだけジェンダーフリーと言われる現代で、顔を出している俳優業界よりも、声で演技をする声優業界こそ、ジェンダーフリーを発信できると考えているとも語りました。
ジェンダーレスの観点から呼び方が変わった職業
男性と女性を分ける必要がないとして、職業の呼び方が変わろうとしているのは、俳優業界だけではありません。
これまでには、様々な職業の呼び方が変わり、今では定着しているものもたくさんあります。
客室乗務員
現在は「CA」「キャビンアテンダント」と呼ばれている、客室乗務員の仕事も、過去には「スチュワーデス」と呼ばれていました。
その理由は、男性客室乗務員の総称である「スチュワード」の女性形として作られた「スチュワーデス」は、性差別用語にあたるとして使われなくなりました。
保育士
過去には、女性の保育士を「保母さん」男性の保育士を「保父さん」と呼んでいましたが、今では総じて「保育士」と呼んでいます。
1999年に児童福祉法が改正され、正式に「保育士」という名称に変更されましたが、その理由には男性の職員が増えたことや、男女の区別がない呼び方にすることがあげられます。
また、資格も「保母資格」から「保育士資格」に変更されました。
看護師
看護師も、以前は、男性に対しては「看護師」と呼び、女性に対しては「看護婦」と呼んでいました。
しかし、2002年に男女共に「看護師」と統一されるようになりました。
その背景には、職業に関する男女平等の考え、男女雇用機会均等法が関係しています。
ちなみに英語での「ナース」という呼び方も男女ともによく使われていましたが、看護師という呼び方が定着してからは「ナース」と呼ぶ機会も減少傾向です。
助産師
看護師の呼び方が変わったタイミングで、助産行為の専門家も「助産婦」と呼ばれていましたが「助産師」に変わりました。
助産婦に関しては、事実上女性専用の資格となっていましたが、これが男女差別に当たるとして問題となったこともありました。
出産に立ち会うのは、女性がいいと考える人が多い一方で、産婦人科医は男性も多いのに、助産師は女性のみというのはおかしいという意見も多かったそうです。
最近は「OL」も会社員と表記することも増えてきました。
女優を俳優と呼んだり、表記することが、当たり前の時代になるのも時間の問題かもしれませんね。